9月29日(土)、雑談。
数日前の、バーテープの接客でのこと。
平均的なバーテープの値段は1500円くらいだと思う。お客さんからみると1500円を払っているのだが、お店から見ると利益として落ちた金額は数百円だ。このギャップをどう捉えるかは難しいところだが、店側としては数百円の利益で接客できる時間なんて数分だろう。
しかしバーテープの接客は数分では済まない。
現在一般的に発売されているバーテープの素材はおよそ8種類。スポンジとかコットンとかビニールとかゴムとか…その1つひとつの特徴や強み弱みを説明すれば、あっという間に20分30分という単位で消費されていく。
巻くときに工賃をもらったとしよう。巻く時間が工賃として返還されたとして、しかし事前に提供した情報にお金は付いてこない。
結局バーテープひとつ捌くのに1時間かかったのだ。部分的にはバーテープは得られた利益額に対して割に合わない仕事量だった。
店の中を見渡して、儲かっているところと儲かっていないところを1つひとつ仕分けてみると、実はフレームも割に合っていない(少なくともフリーダムでは)。
内部事情を話すと、フレームはホイールやコンポに比べて仕入れ掛け率が高い。具体的には、4本買ってきて3本売れても、3本買ってきて2本売れても、1本余るだけで利益は出ない。最後の1本まできっちり売りきってようやく口座にお金が増える。
しかし最後の1本を売ろうとしたとき、カラーとサイズがピタリと合う確率は低い。だから最後の1本が不良在庫になったとき、そこから“救い出す”ための労力を含めてフレームはフレームのセクションだけで成り立っておらず、単純売買する商品群の中では足を引っ張っている。
では儲かっているセクションは何か。
例えばウェア。ウェアは単価が高く、見た目以上に優先される要素が少ないため接客がほとんど要らない。適当に置いておくだけでお客さん達は勝手に手に取り、レジに持っていく。
例えばタイヤ。こちらも消耗品としては単価が高く、さらに使用してみないとわからない要素が多いため接客の必要性が非常に少ない。太いタイヤと細いタイヤのロジックを説明したところで実利数百円のバーテープよりも説明時間は短い。
ユーザーは頭がいいから、すでにわかっている。
接客が要らないところは通販で買えばよく、情報が必要な時だけお店に行く。バーテープやフレームはお店で買い、ウェアやタイヤは手元のスマホに依頼すればいい。
この時ユーザーは、一番単価の高いフレームは買ってるんだからその他の部位に関しては余所(通販)で買うのくらい許してよと主張する。しかしサイクルショップから見ればフレームは儲からないセクションであり、通販に流れやすいタイヤやウェアこそが経営の生命線。
逆なんだよ、フレームなんて他所で買って構わないからタイヤこそ店で買って欲しいんだよ、と。
実店舗購入派と通販活用派は、2年前の時点で7:3と言われている。お店としては売上が3割下がったら存続出来ないから、数年前の時点ですでに致命傷だった。
簡単に儲かるセクションを失って儲からない部分だけが残りながら、3割減った売上で蟹工船のごとく続けてきた。いまでは、10年20年後には今の50歳60歳が70歳80歳になり10代20代が30代40代になることを見据えながら、絶命するのを待っている状態ではないか。
ただ物を置いて売れていくのを眺めているだけの商売は、すべて消滅するだろう。
本屋、釣具屋、家電…迫りくる時代の流れには抗えない。トイザらスが潰れてフリーダムが潰れないはずがない。子供向けのおもちゃ屋が潰れるのなら、大人向けのロードバイクショップも潰れるのが道理である。
儲からないセクションというのは、何をどう工夫しても解決しなくて儲からないことが変えられないことが多い。
思うに唯一の対抗手段は、儲かるけど通販に流れやすいセクションを、どうにか食い止めること。儲からないセクションは、儲かるセクションと一緒にしないと存続しえないのだ。
だから儲からないセクションだけで薄利多売を続けるのではなく、流出してしまった儲かるセクションを呼び戻さないといけない。
その手段のひとつが有益な情報をまとわせること。情報から直接お金を産むことが出来ないのは悔しいところだが、外部への流出は防ぐことが出来る。
フレームやバーテープなどの割に合わないセクションとは、言い換えると製品情報や事前知識、勉強や実践経験がたくさんいる分野である。
あっという間に移り変わっていく製品群に対してインプレッションが追い付かないこともある。情報を追い続けるために時間も体力もお金も膨大なリソースをかけて、それでも経験でモノを言えるようになるよりも早く新しいパーツにモデルチェンジしていってしまうこともある。
それでも。
情報を追いかけるのを辞めてはいけない。これから先の時代は、何よりも知識のインプットを優先させないといけない。情報を追いかけることに疲れた時点で店は死ぬのだから。
……つづく。