自転車・ディスクブレーキの動向と機材選択の基準。
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この記事は情報不精査により、10月22日に一部訂正がありました。
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2020年の機材は、ルック・795ブレードRSのリムブレーキ仕様にした。
来年度の機材はフレームもホイールもコンポもすべて新調する都合であったため、ディスクブレーキモデルを選ぶにあたって、なんでも導入できるタイミングであった。
ディスクブレーキ車導入における最大の壁のひとつである予算問題がクリアできていたにもかかわらず、結果としてリムブレーキを選んだのには相応の理由があるが、それを書く(読む)前に過去記事を理解しておいてほしい。
基本的な考えは過去から継続していて変わらない。
ポケモンGOなどの余計な部分は省いて要点だけ抜き出しておいたので、もしよかったら再読を願いたい。
私は業界の中でもディスクブレーキには否定派だと思う。
本来は制動力を高めることが目的であるはずのディスクブレーキで制動力が向上していないこと、維持費やメンテナンス頻度の高さ、遠征時のトラブルの対処の難しさなど、ディスクブレーキ導入に対する代償が大きいこと。車体の重量増もあり採用に至らない。
再掲載した参考記事は2018年夏と2018年秋と2019年冬のものであり、およそ1年から半年ほど前の記事であるけれど、その内容や評価はいまだに変わっていない。
当然だ。
コンポーネントがまだモデルチェンジしてないのだから、評価が変わるはずがないのだ。
一方でディスクブレーキ車を所有することそのものは、性能面での否定よりもやや軟化していった。
過去記事には「ディスクブレーキを持つことを観念する」とか「どちらにしようか迷っている」などという文章が散見されるけど、業界の流れがディスクブレーキに傾倒していく中で、かたくなに否定し続けるとショップの存続にかかわりかねない。
いささか消極的な選択ではあるものの、ディスクブレーキの性能いかんではなく、専門ショップの店長という立場からして、ディスクブレーキにネガがあることは受け入れつつも、どうにか取扱っていかなければいけないというプレッシャーは常に感じていた。
2019年1月5日の日記の中に、「12mmスルーアクスルの恩恵は計り知れないほど大きく、これだけのために全てのリスクを投げ出してディスクブレーキを採用する価値がある」という一節がある。
12mmスルーアクスルへの肯定的な意見はディスクブレーキに対する否定的意見と同じく、1年前から持ち続けているものだ。
ではなぜ2020年の機材を選ぶ時期となった今、12mmスルーアクスル(ディスクブレーキ)ではなく、リムブレーキ(9mmクイック)を採用したのか。
それは12mmクイックの存在をもってしても、ディスクブレーキのネガを避けるべきという考えに他ならない。
ディスクブレーキのネガとはいったい何か。
それは信頼性の欠如だ。
維持費の高さ、取り扱いにくさ、遠征の難しさ、いくつかあるネガの中でも、とりわけ信頼性の低さはディスクブレーキ車における最大のネガといえる。
【訂正前】
というのもディスクブレーキはいきなり壊れてしまう…
【訂正後】本来ならなんらかの予兆がある(あった)のかもしれないが、選手やユーザーにメカニカルに対して十分な知識が無いことが多く、トラブルが起こる予兆を感じないまま本懐してしまう事が多い。
ユーザー達はいきなり壊れたように感じてるし、メカニック側としては原因の究明が極めて困難だ…
普段の練習でも問題ない...前日の試走でも問題ない…でも本番でいきなり壊れる。
機材の故障が落車につながり、選手は努力とシーズンを棒に振る。所属チームのメカニックにも代表監督にも、もちろん選手本人にもわからないから原因はわからないまま。
問題なのは、こういったことがワールドツアーや世界選手権、所属チームでもナショナルチームでも、世界のトップクラスの人材が集まるところで起こっていること。
幸いにしてフリーダムではまだ油圧システムの機材トラブルは起こっていないが、休業中のフリーダムをして、顧客に「ディスクブレーキやオイルシステムに問題はありませんか?」とダイレクトメールを入れ続けているほどだ。
今年の春先ではまだ、ディスクブレーキを投入していたチームは増加傾向だったが、今年の夏を境に減少傾向に転じた。
春先は新しい製品や新しい監督やコーチのもとに、機材も考えも入れ替わるカオスな時期だけど、シーズンが進むにつれて反省点が洗い出され、成熟していく。
特にスペインのナショナルチームが今夏をもって、すべてのディスクブレーキを取り止めてリムブレーキに戻したのは、業界にとって衝撃的だった。
例えば日本の一般ユーザーの世界はトップアマチュアの機材思考に倣って偏っていくけれど、プロの世界だってトッププロの動向意向で流行や理論が変わっていくのは同じである。
その中でもトップofトップであったスペインナショナルチームがディスクブレーキを止めてすべてリムブレーキに戻したというのは、ものすごく重要な事件だったんだ。
こういった流れで書くと虎の威を借るキツネになってしまうのかもしれないが、たとえ千葉の片田舎のショップ店長のディスクブレーキ否定論に反対する人がいても不思議じゃないけど、スペインのナショナルチームが一度導入したディスクブレーキを全面的に取りやめたとあったら、これは世界中の誰しもが再考すべき話題なのでは?と思う。
みんなきっとね、自分だけは大丈夫だと思ってる。
でもそれってなんの根拠も無いでしょ?
そしてスペインチームはそう思ってないからこそリムブレーキに戻したんだ。
オイルシステムのディスクブレーキの信頼性がワイヤードのリムブレーキよりも低いのは、およそ一般ユーザーにも浸透していると私は感じている。
でもその信頼性の低さは、場末の雑多なショップと初心者ユーザーだけに起こっているわけではなく、世界のトップメカニックとトップ選手にも起こっているものだ。
加えて弁明すると、そもそも日本のプロショップのメカニック達の技術は、UCIプロコンチネンタルチームのメカニックの水準を上回ってるとすら思う。
それだけ日本の一般ユーザーが求めてくる水準が高い(悪い言い方するとユーザーの操作技術や機材への理解度が低い)のであって、それに応えなければいけない日本のショップのメカニックの技術は相当に高い。
日本人気質の丁寧さをもってしてこれほどトラブルが多いというのは、もはやメカニックの技術が低いのではなくて、製品そのものに欠陥があると捉えていい。
将来的に解消できるのかもしれないが、すくなくとも今はまだそこにある。
もう一つの新しいネガが、遠征のしにくさ。
これは信頼性の欠如に比べるとそこまで大きくないネガだけど、ディスクバイクはとにかく気を使う。
最新のエアロロードは特に、油圧システムのオイルホースがハンドルやステムに内装されることが多い。
この時ワイヤリングラインに余裕がないことで、梱包時に簡易的にバラそうとしてもハンドルやステムが外せないことが多い。
できる限りエレクトリックワイヤーを露出させた状態で輸送したくないと誰もが思うけど、半組状態のときには、ディスクブレーキのオイルホースは金属ワイヤーのリムブレーキに比べてはるかに不安定だ。
加えて輸送時にローターを外すのはもちろん、予備のディスクローターを常備するのも基本にして絶対。さらに携行しなきゃいけない工具も現地での作業も増える。
スルーアクスル対応のキャリアや輪行袋、輪空バッグは増えてきたけど、単純にオプション自体が少ない。
私自身の遠征は国内がほとんどだし、車遠征では常にルーフキャリアで車輪もハメたまま。飛行機に乗せる時もシーコン・エアロコンフォートで行くのでそこまで問題ではない。
でもチームメイトのためにブリーディングキットは持っていく。
オイルシステムは考えなくちゃいけないことが多くて気疲れする。
総括して、半年ほど前までは、ディスクブレーキのネガティブを受け入れてでもスルーアクスルの性能が欲しかった時期があった。でも今となっては製品そのものの信頼性が欠けているのが明確になり、スルーアクスルの恩恵のために甘んじられる内容ではなくなった。
加えてスルーアクスルの性能向上がリザルトに直結するほどではないのもわかったし、制動性能的にはディスクブレーキは必要ではないことも不変で、遠征や普段の取り扱いの難しさからも油圧システムは避けておきたい。
これから先も注意深くディスクブレーキの動向は観ていくけれど、自身の機材に導入するのは1年以上先送りになる。
別に保守的な考えにとどまった結論ではないつもり。
ディスクのいいところも十分わかっているつもりだし、自分にディスクブレーキを取り扱う技術がないわけでもない。
ただ単純にこの半年の間で、リムブレーキからディスクブレーキに転換しようと思っていたら、さらに反転して1周回ってリムブレーキに戻っちゃっただけなのだ。